◎「せき髄損傷」について
「せき髄」とは,せき柱管内にある中枢神経であり,脳と体の各部とを結ぶ主要な神経伝導路で,脳の底部(延髄)から第1~2腰椎まで長い円柱状(長さ40~45cm・太さ1cm)の構造をしています。
「せき髄」は,「頸髄」(C1~C8),「胸髄」(T1~T12),「腰髄」(L1~L5),「仙髄」(S1~S5),「尾髄」に分けられ,それぞれの髄節から,末梢にせき髄神経が伸びています。
せき髄損傷の症状
外傷等によりせき髄が損傷されると,損傷部位より下位の運動機能と感覚機能に障害が生じます。せき髄損傷の好発部位は,「頸椎部」と「胸椎移行部」です。
損傷された部位によって運動麻痺や感覚障害の分布は異なりますが,対麻痺や四肢麻痺が生じた場合には,広範囲にわたる感覚障害と尿路障害」神経因性膀胱障害)等の「腹部臓器の障害」が通常認められます。この場合には,「せき柱の変形及び運動障害」が認められることも多いです。
せき髄損傷の部位と障害の種類
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頸髄損傷 |
胸髄損傷 |
腰髄損傷 |
運動障害 |
・四肢麻痺
・呼吸筋麻痺等 |
・主に下肢麻痺 ・T8より高位の損傷では内臓機能不全を伴う体幹麻痺 |
・L3より下位の損傷では,装具や杖を用いて歩行することが可能です。 |
自律神経障害 |
・頸髄損傷及び上記胸髄(T1~T5)の損傷では,体温調節障害(発汗障害)が生じます。
・頸髄損傷及びT6の損傷では,自律神経過反射により,急激な血圧上昇(頭痛,発汗,嘔吐)が生じます。また,起立性調節障害が生じます。 |
排尿障害・排便障害 |
・損傷部位の高位にかかわらず,通常,排泄障害を伴います。 |
感覚障害 |
・損傷された位置に対応して,温覚,痛覚,触覚,振動覚,運動覚等が失われます。 |
せき髄損傷の後遺障害等級認定について
せき髄の損傷による障害は,下記の認定基準に従い,「7段階の区分」に応じて等級を認定することとなります。認定においては,MRI等による画像所見及び臨床所見により裏付けることのできる麻痺の範囲及び程度をもとにします。
なお,障害が第1級及び第2級に該当するかどうかは,介護の要否及び程度を踏まえて認定することになります。
別表第1
等級 |
労働能力喪失率 |
認定基準 |
後遺障害慰謝料 |
1級 |
100% |
1 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの
- 高度の四肢麻痺又は対麻痺が認められるもの。
- 中程度の四肢麻痺又は対麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの。
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2800万円 |
2級 |
100% |
1 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの
- 中等度の四肢麻痺が認められるもの。
- 軽度の四肢麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの。
- 中等度の対麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの。
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2370万円 |
別表第2
等級 |
労働能力喪失率 |
認定基準 |
後遺障害慰謝料 |
3級 |
100% |
3 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの
- 軽度の四肢麻痺が認められるもの。
- 中等度の対麻痺が認められるもの。
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2800万円 |
5級 |
79% |
2 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 軽度の対麻痺が認められるもの。
- 一下肢の高度の単麻痺が認められるもの
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1400万円 |
7級 |
56% |
4 神経系統の機能または精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 一下肢の中等度の単麻痺が認められるもの。
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1000万円 |
9級 |
35% |
10 神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
- 一下肢の軽度の単麻痺が認められるもの。
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690万円 |
12級 |
14% |
13 局部に頑固な神経症状を残すもの |
290万円 |
せき髄損傷に関する留意点
せき髄損傷における後遺障害の認定については,原則として,MRI等の画像所見による裏付けが必要であり,そのほか,他覚的な神経学的所見と整合することも必要となります。
脊椎に異常が生じない場合には,MRI画像を撮影しなかったり,精度の低いMRIでの撮影のために,せき髄損傷が見逃されてしまうこともあります。
症状に応じた適正な認定を受けるためには,早期に精度の高いMRI画像を撮影し,神経学的検査を実施することが必要となりますので,どのような検査が必要か,どのような書類が必要になるのかを,できる限り早期に後遺障害の地検のある弁護士に相談し,場合によっては,専門医の適切な検査・治療を受ける必要性が高いものと思われます。