◎介護事故について
高齢者や障害者などで介護を受けておられる場合、さまざまな介護事故に遭う可能性があります。
もしも介護事故に遭ってしまったら、誰にどのような損害賠償請求をできるのでしょうか?
介護の現場ではどのような類型の事故が多いのかも押さえておきましょう。
今回は、介護事故に遭ったときの対処方法を、山口の弁護士がご説明します。
1.介護事故で多い類型は転倒事故
介護事故とは、高齢者や障害者などが介護を受ける中で発生する事故全般です。介護施設や利用者の自宅などの場所で起こります。
典型的な介護事故として、以下のようなケースがあります。
転倒事故
お風呂やトイレの介助を受けているときや、車いすに乗り降りしたりベッドに乗せたり下ろしたりするときなどに転倒します。介護事故のうち8割程度は転倒事故とも言われています。
誤嚥事故
食事やおやつなどを気管に詰まらせる事故です。窒息死する危険性もあります。
介護者のミス
介護事業所の職員など介護者のミスによって利用者が骨折やその他のけがをするケースです。
暴行・虐待
介護職員が利用者に対して暴行を振るったりその他の虐待行為をしたりするケースがあります。
感染症、食中毒
おむつなどの状態が不衛生で利用者が感染症にかかることがありますし、施設内に感染症が流行り、利用者が病気にかかるケースもあります。
施設内の食事などに問題があり、利用者が食中毒にかかって衰弱したり死亡したりする事故も発生します。
利用者同士のトラブル
施設利用者どうしが喧嘩をして暴行事件に発展するケースなどがあります。
窃盗、器物損壊
利用者が他の利用者の物を盗ったり壊したりする事件です。
徘徊による行方不明、衰弱
利用者が介護事業所に無断で外出したり徘徊したりして行方不明となり、その結果負傷したり衰弱したりします。最悪の場合には死亡するケースもあります。
2.介護事故で請求できる賠償金
介護事故が発生した場合には、加害者に対して以下のような損害賠償金を請求できます。
治療関係費
治療費、投薬料、検査料、手術等の費用です。
付添看護費用
職業看護人や家族が付き添った場合の看護費用です。
入院雑費
利用者が入院すると、1日あたり1500円程度の入院雑費が認められます。
交通費
通院に要する交通費です。家族の分も認められます。
休業損害
家族が仕事を休んで介護した場合には家族の休業損害が認められます。
慰謝料
被害者の受傷の程度に応じて慰謝料請求できます。後遺障害が残った場合、死亡した場合にもそれぞれ慰謝料が発生します。
葬儀費用
介護事故によって利用者が死亡したときに認められます。
診断書代などの雑費
死亡逸失利益
利用者が老齢年金や障害年金を受給していた場合、死亡によって年金を受け取れなくなってしまいます。
そこで将来の年金分の損害について、賠償請求できます。
3.介護事故で責任を負う人
介護事故が発生したとき、誰に対して損害賠償請求をできるのか、みてみましょう。
3-1.介護職員
介護事故は、介護事業所の職員によって引き起こされるケースがあります。
たとえば介護上のミスで利用者が骨折したり転倒したりする場合もありますし、衛生管理不行き届きで感染症にかかったり、間違った薬を渡されたりすることもあります。ときには虐待されることもあるでしょう。
このようなときには、介護職員に「不法行為」が成立するので(民法709条)、利用者は加害者である介護職員に対し、損害賠償請求できます。
3-2.介護事業所
介護事故では、介護事業所にも責任が発生するケースがあります。
まず、介護事業所は利用者との間で、適切に介護サービスを提供すべき契約をしています。それにもかかわらず、安全配慮を怠って利用者に損害を与えているのであれば、介護事業所には契約違反の債務不履行が認められます。
そこで利用者は、介護事業所に対して債務不履行にもとづく損害賠償請求が可能です。
また介護職員に不法行為が成立する場合、介護事業所は、直接の加害者である介護職員を雇用しているので「使用者責任」も負います(民法715条)。
そこで、利用者は介護事業所に対し、使用者責任にもとづいて損害賠償請求することも可能です。
4.介護事故で発生する行政上の責任について
介護事業所は、行政からの認可を受けて運営されていますが、事業所内やサービス提供中に介護事故が起こると、行政処分を受ける可能性があります。
処分の内容には、勧告と勧告内容の公表、命令や指定の取消があります。指定を取り消されると介護事業所としての運営が困難となります。
5.介護事故に遭ったときの注意点
介護事故に遭ったとき、必ずしも全額の賠償請求ができるとは限らないので、注意が必要です。被害者側にも過失があれば、「過失相殺」により、賠償金額が減額されるからです。
たとえば被害者が他の利用者とトラブルになったときは、被害者自身が相手を挑発していれば被害者にも責任があると考えられます。
転倒、徘徊した場合などにも被害者に一定の過失が認められる可能性があります。
具体的にどの程度の責任が認められるかについては、被害者の要介護度や状態、利用していたサービスの内容などによって異なってきます。
適切に過失割合を算定するには、法律的な知識を持った専門家が個別具体的に判断する必要があります。
介護事故が起こったとき、利用者本人が損害賠償請求を進めることは困難なケースが多いですし、家族が代わりに手続をとるとしても限界があるでしょう。
高齢者が事故に遭った場合、重大な後遺障害が残ったり死亡したりして重大事故につながるケースもあります。
ご家族やご自身が介護事故に遭ってお困りの場合には、お早めに山口の弁護士までご相談ください。