◎低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)
交通事故で強い衝撃を受けると、外傷がなくても事故後に「頭痛」などの辛い症状が出るケースがあります。
治療を続けても痛みが続く場合「低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)」として後遺障害認定される可能性があります。
以下では低髄液圧症候群が起こるメカニズムや認定される後遺障害の等級、注意すべきポイントを、山口の弁護士が解説していきます。
1.低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)とは
低髄液圧症候群とは、人間の頭の中で脳を覆っている膜に傷がつき、中の髄液が外に漏れ出すことによって起こる症状です。
脳はとても柔らかく傷つきやすい組織であり、保護するために「髄液」と呼ばれる水分によって包まれています。
そしてその髄液が外に漏れ出さないように「硬膜」「くも膜」などの「随膜」で覆っています。
ところが交通事故によって強い衝撃を受けるとこれらの「髄膜」に傷がつき、中の髄液が外に漏れ出して中と外の圧のバランスを保てなくなります。
すると脳が下に下がるなどして神経や血管が引っ張られて強い痛みなどの症状が生じます。
これが「低髄液圧症候群」のメカニズムです。
脳内の髄液が減少することによって発症するので、現在では「脳脊髄液減少症」と呼ばれるケースが多くなっています。
2.低髄液圧症候群の症状
低髄液圧症候群の典型的な症状は「起立性頭痛」です。すなわち立ち上がったときに特に強い頭痛を感じます。
起立性頭痛以外の症状は「むちうち」や「バレ・リュー症候群(交感神経の異常によって起こる症状)」と似ています。
- ○ 起立性頭痛
- ○ めまい、耳鳴り
- ○ 吐き気
- ○ 全身の倦怠感
- ○ 首周辺の痛み
- ○ 視力低下
- ○ 異常発汗
症状がむち打ちやバレ・リュー症候群に似ていることから、交通事故後低髄液圧症候群になったとき「むち打ち(頸椎捻挫)」や「バレ・リュー症候群」などと誤診されるケースがあります。
しかし、低髄液圧症候群にむち打ちなどの治療法を施しても効果が無いので、むち打ちと誤診されたままでは適切な治療を受けられません。
むち打ちなどと低髄液圧症候群の違いは「起立性頭痛」の有無です。
交通事故後、立ち上がった際の頭痛が起こって辛いのに「むちうち」「バレ・リュー症候群」などと診断されているなら、一度脳神経外科でMRIなどの検査を受けて、脳の状態を調べてもらいましょう。
3.低髄液圧症候群の治療方法
低髄液圧症候群にはこれまで有効な治療方法がないと考えられていましたが、今は「ブラッド・パッチ」という方法が有効とされています。
ブラッド・パッチとは、髄膜の穴の空いた箇所を自分の血によって塞ぐ方法です。
穴を塞ぐことによって中の髄液が外に漏れ出すことがなくなり、症状が改善されるケースがみられます。
1回のブラッド・パッチでは症状が改善しない場合でも、2回目を試してみると改善できる方もおられます。
ブラッド・パッチを2回実施した場合、患者全体の約7割は症状が改善されると言われています。
4.低髄液圧症候群で認定される後遺障害の等級
低髄液圧症候群は、比較的最近になってようやく認知されてきた症状です。
検査や治療に健康保険が適用されるようになったのもつい最近(検査について平成22年、治療について平成24年)のことで、診断基準についても平成23年に厚生労働省によって明らかにされたばかりです。
http://www.pref.osaka.lg.jp/kenkozukuri/info/
このように新しい傷病なので、交通事故で脳脊髄液減少症が「後遺障害」として認定されるようになったのも最近です。
現在においても自賠責保険では、脳脊髄液減少症は後遺障害として認められないケースがほとんどですし、裁判を起こしても後遺障害認定を受けるには困難を伴います。<
多くのケースでは14級の認定にとどまりますが、中には9級、12級が認定されるケースもあります。
低髄液圧症候群は「神経症状」の後遺障害として等級認定されます。
- ○ 9級10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
- ○ 12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
- ○ 14級9号 局部に神経症状を残すもの
5.低髄液圧症候群で後遺障害認定を受けるために必要なこと
脳脊髄液減少症になった場合に適切に後遺障害認定を受けるには、以下のような対応が重要です。
5-1.症状を医師にわかりやすく伝える
まずは自覚している症状を、正確にわかりやすく医師に伝えることが重要です。
脳脊髄液減少症は比較的新しい傷病で、医師の方も「むち打ち」と判断してしまうことがあります。
間違った診断をされたままでは治療も検査も適切に行われませんし、後遺障害認定を受けるのも困難です。
そこで「立ち上がったときに頭痛が起こる」「姿勢を変えると症状が変わる」など、脳脊髄液減少症に典型的な症状を伝えて正しい診断を受けるところから始めましょう。
5-2.専門医にかかる
脳脊髄液減少症については、まだまだ専門医も少ない状況です。
むち打ちだと思って整形外科に通っても、見逃されてしまう可能性もあります。
脳脊髄液減少症が疑われるならば、脳神経外科に行ってMRIなどをきっちり撮影してもらい、専門医による適切な診断を受ける必要があります。
5-3.症状の立証方法
脳脊髄液減少症の症状を立証するためには「画像診断」が非常に重要です。
厚生労働省のガイドラインにおいても、画像診断結果が脳脊髄液減少症の診断基準として採用されています。
後遺障害認定でも画像診断結果が決め手となるので、慎重に対応すべきです。
脊髄MRI
造影剤を使って脊髄MRIを撮影すると、髄液が減少している様子を把握できるケースがあります。
RI脳槽シンチグラフィー
RI脳槽シンチグラフィーは、体内に「放射性同位元素(RI)」を投与して、RIから発せられる放射線を撮影する検査方法です。
これにより、髄液の漏れを確認することが可能です。
CTミエログラフィー
造影剤を使ってCTで全身を撮影すると、髄液が漏れ出しているのを発見できるケースがあります。
脳脊髄液減少症が疑われる場合には、上記のような医療機器が揃っている病院で適切な検査を受ける必要があります。
交通事故後、むち打ちと判断されていても脳脊髄液減少症になっている可能性があります。
また、脳脊髄液減少症で後遺障害認定を受けるのは簡単なことではなく専門家によるサポートが必須であるといえます。
山口で交通事故に遭ってお困りの際には、お早めに弁護士までご相談ください。